Column
人事労務担当者が扱う法の範囲とは
以前のコラムで「労働問題を取り扱う難しさ」と「職場におけるルール」について記載させて頂きました。前者では「刑事面と民事面」という視点で法律を正しく読む重要性と裁判の判断基準の把握について、後者では職場におけるルールという視点から「労働契約、就業規則、法律、労使慣行」について、それぞれ触れさせて頂きました。
これらからも分かるように、人事労務に関わる方は、法律をはじめ多くのルールを正しく把握し運用していかなければいけません。そこで今回は、「人事労務担当者が扱う法の範囲」という視点で、どのような法(ルール)を把握しておく必要があるのか、その全体像を見て行きたいと思います。
全体が把握できないもどかしさ
人事労務関係で何らかの問題が生じたとき、担当者の多くは労働基準法をはじめとする法律、そして会社の就業規則を確認すると思います。そして、その行動は担当者の最初の行動としては正しいものとなります。
しかし、実際に法律を見てみると「命令で…」「厚生労働省令で…」というような記載があったり、就業規則を見ても「法律による」と記載されていたり、さらに労働基準監督署に問合せをしてみても「通達で…」と言われたりと、単純に「〇〇法」と言われる法律のみを確認しれば良いだけでないという壁にあたり、さらに「労使慣行」や「裁判の判断基準や類似案件の結論」も把握しなければ最終的な判断を行うことが出来ないという実態に、少なからず、不安を感じているのではないかと思います。
このように1つの問題を解決するために多くのことを正しく把握しなければならないが、それ自体が難しいという状況は、人事労務を取り扱う人に取っては非常にもどかしく感じられると共に、大きなストレスにもなっているのではないかと思います。
判断のために把握すべき法の範囲 -法源-
何らかの問題が生じた際に把握すべき範囲、それは、その問題を解決するための基準となります。言い換えますと、その問題が裁判所に持ち込まれた際に裁判官が判断をするための何らかの法的な基準(これを「法源」といいます。)を把握するする必要があります。
この法源は、まさに法の源であり、判断の基準です。そして、この法源には、次のようなものが該当します。
1.制定法(憲法、法律、命令(政令、省令)、その他)
2.慣習法
3.就業規則、労働協約
4.判例
以下では、これらの法源について、簡単に見て行きたいと思います。
法源について
それでは、上記1から4の法源について、簡単に見て行きたいと思います。
1.制定法
憲法が日本の最高法規であることは、多くの方がご存じかと思いますが、その憲法では制定法の法形式として、①法律、②両院議員規則、③最高裁判所規則、④政令、⑤条例、⑥条約、を定めています。また、①法律に含まれる、国家行政組織法という法律においては、省令、告示、通達に関する既定を持っております。
そのため、人事労務関係という視点では、発生した問題に対応する憲法の既定、法律の既定、政令、省令、告示、通達、という制定法を把握しなければなりません。
2.慣習法
公序良俗に反しない慣習は法律と同様の効力を有するとされております(通則法3条)。労務トラブルの場面においては「事実たる慣習」が判断を分けることもあります。この事実たる慣習については、民法92条に規定されておりますが、例えば、就業規則に規定されている内容とは異なった取扱いが実施されており、労使双方がその取扱いによる意思を有している場合には、いくら就業規則に規定されていても、その事実たる慣習がルールになるということです。そういう意味では、職場の実態、特に就業規則の既定と異なった取扱いはしっかりと把握しておく必要があります。
3.就業規則、労働協約
就業規則及び労働協約については、多くの方がご存じかと思いますので、割愛させて頂きますは、就業規則については、必ず、労働者への周知を忘れずに実施してください。この労働者への周知は、就業規則の効力発生要件となりますので、どんなに素晴らしい就業規則を作成した場合であっても、周知されていなければ、全く意味をなさないものとなってしまいます。就業規則の詳細につきましては、コラム「職場におけるルール」をご覧ください。
4.判例
最高裁判所、高等裁判所、地方裁判所という各裁判所が下す判決において、最高裁判所が出した判決を「判例」と言います。三審制がとられている中で、同様の事件は同様に取り扱われるべき、そして下級裁判所は上級裁判所の判決に従う傾向があること、そして最高裁の判例を変更する場合には通常の5名の小法廷ではなく、15名の大法廷で判決を下さなければならないこととなり、この最高裁の判決である判例は、労務トラブルが裁判になった際にどのような判断が行われるかを想定するための非常に重要な基準となるため、会社のリスクヘッジとして、その内容の把握は、欠かすことの出来ないものとなります。
適切な判断とコア業務への集中のために
労務トラブルが発生してしまった場合には、上記の法源をしっかりと押さえ、さらに発生してしまった事案に照らし合わせて、そのような対応がベストであるのか、どのようなリスクが発生し得るのか等を最悪の事態も考慮し、検討しなければなりません。しかし、労働環境が大きく変化し続けている昨今、本来、人事労務担当者行うべきコア業務を考えた場合、しっかりと時間を割いて調査をし、判断を行うということは、労務トラブルの早期解決という視点からも難しいものではないかと思います。
EPコンサルティングサービス及び社会保険労務士法人EOSでは、労務トラブルの内容に応じた調査のみならず、そこから発生する社会保険手続きや給与計算に至る一連のプロセスをサポートすることが可能となりますので、労務トラブルが発生した際、又は事前防止のサポートとして、お気軽にお声がけ頂きたいと思います。
Yoshito Matsumoto
HR Solution Division/Director and Business Manager Specified Social Insurance and Labor Attorney Social Insurance Labor Consultant Corporation EOS Representative employee Master of Comparative Law, Japan Labor Law Association After graduating from graduate school, he was a consultant at the Tochigi Labor Bureau and worked at a social insurance and labor attorney office in Yokohama, then joined EPCS.