コラム
「手動」と「自動」のはざまで
私が新入社員として初めて経理の仕事に携わった時、前職の会社では会計システムを導入したばかりだった。自分にとって伝票作成といえば、会計システムへ入力する事であったし、チェックする伝票もシステムで打ちだされた帳票形式であった。
ある時、前年度の事柄を調べるように指示され、初めて過去に使用していた伝票を見た。すべて手書きで、これは作るの大変だったろうなあと驚いたことを今でも覚えている。伝票時代も総勘定元帳や残高試算表は機械化されていたが、経理処理の入口である伝票入力がシステム化されたことは「手動」から「自動」への大きな一歩であったと言える。それから30年が過ぎ、光学読み取り、AIなどの普及もあって今や伝票入力のプロセスすらも自動化が進んでいる。これからも「自動」の部分が増えてゆくことは間違いない。
そして自動化は税務申告書等の作成の分野へも及んできている。ひな形に必要事項を入力していけば、あとはAIが読み取っていって申告書の経験値の少ない人でも申告書が作れる、という話もよく耳にするようになった。実際、昨今の申告書作成ソフトの技術的な進歩は著しく、入力項目の内容把握さえ間違えなければ、税務申告書の別表間の繋がり、もっと言えば税法をよく知らなくても正しい申告書が作れてしまう。それは本当に正しい「自動」なのか?
否、そうではないと私は考える。「手動」を理解した人間こそが、初めて「自動」を使いこなせるのだ。当社では従前より社員教育を実施しているが、昨年は消費税、法人税の申告書について、「手動」で申告書を書けるようになることを目標に相当の時間を掛けて行った。一見、自動化の流れには逆行しているようにさえ見えるが、私は「自動」が進んできた今だからこそ、こういった研修が必要なのだと感じている。
「手動」と「自動」のはざまで、時には悩みながらも社員教育に力を注ぐ姿勢をこれからも我々は持ち続けたいと考えている。
幅舘 稔Minoru Habatate
ACCTソリューション事業部 マネージャー 公認会計士 事業会社在職中の2008年に公認会計士試験合格。 2011年公認会計士登録。同年EPコンサルティングサービスに入社。