コラム
休業手当とは?計算方法から支払われないケース、休業補償との違いまで徹底解説
休業手当とは、会社の都合で従業員を休ませた場合に、企業が支払うべき賃金の一部であり、労働者の生活を守る重要な制度です。しかし、「どんな時にもらえるの?」「計算方法は?」「休業補償とは何が違うの?」といった疑問を持つ方もいるでしょう。
本記事では、休業手当の基本や具体的な計算方法、支払われるケースと支払われないケースの違いなどについて解説します。税金や社会保険の扱いにも触れるので、ぜひ最後までご覧ください。
休業手当とは?
まずは休業手当について、以下の2つの視点で解説します。
<休業手当の基本>
- 根拠となる法律「労働基準法第26条」と制度の目的
- 休業補償との違いとは?
根拠となる法律「労働基準法第26条」と制度の目的
休業手当の根拠は、労働基準法第26条に定められています。この条文では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と規定されています。
これは、本来であれば働いて賃金を得られたはずの従業員が、会社の都合で働けなくなった際に、生活を最低限保障することを目的とした制度です。会社の経営難や仕事量の減少などがこれにあたります。
休業補償との違いとは?
休業手当と名前が似ている制度に休業補償があります。
休業手当は、会社の都合による休業が原因で、労働基準法に基づき会社から支払われます。一方、休業補償は、従業員が業務上のケガや病気が原因で休業した場合に、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき、労災保険から(労働基準監督署を窓口として)支給されるものです。
原因、根拠法、支払元、そして給付額の計算基礎も異なるため、明確に区別して理解しておく必要があります。
休業手当が「支払われるケース」と「支払われないケース」
休業手当が支払われるかどうかの判断は、休業の原因が「使用者の責に帰すべき事由」にあたるかどうかで決まります。以下の3つの観点で支払い条件について見ていきましょう。
<休業手当の条件>
- 使用者の責に帰すべき事由とは?
- 支払われるケースの具体例
- 支払われないケースの具体例
使用者の責に帰すべき事由とは?
「使用者の責に帰すべき事由」とは、会社の都合や責任によって休業が発生した場合を指します。民法上の「不可抗力」よりも広い概念と解釈されており、経営者として通常払うべき注意や対策を尽くしてもなお避けられないような事由以外は、基本的に該当すると考えられています。
つまり、天災地変のような完全に外部からもたらされる事由を除き、経営上の判断や管理上の不備など、広く会社側の原因が含まれるのが特徴です。
支払われるケースの具体例
休業手当の支払い義務が発生する「使用者の責に帰すべき事由」には、さまざまなケースが該当します。
例えば、経営難や資金難による操業停止や仕事量の減少による自宅待機命令、原材料の仕入れ不足や機械の故障・メンテナンスによる生産停止などが典型例です。また、親会社の経営不振や業務命令によって子会社が休業する場合や、事業場の電気の保安点検(計画的なもの)なども、会社の都合による休業と見なされ、休業手当の支払いが必要となります。
支払われないケースの具体例
一方、休業の原因が「使用者の責に帰すべき事由」にあたらない場合は、休業手当の支払い義務は発生しません。代表例が、地震や台風、水害といった天災地変による休業です。これは、会社の責任範囲を超える不可抗力と見なされます。
また、従業員自身の都合による傷病での休みや、従業員側が行うストライキによる休業なども対象外です。労働者が年次有給休暇を取得した場合も、当然ながら支払われません。
休業手当の支給対象者
休業手当の支給対象者は、正社員や契約社員といった雇用形態に限定されません。パートタイマー、アルバイトなど、会社と雇用契約を結んでいる全ての労働者が対象となります。
最も重要な要件は、自身の都合ではなく「会社の都合(使用者の責に帰すべき事由)」によって休業を命じられたことです。この条件を満たす限り、労働者は勤続期間や役職に関わらず、労働基準法に基づいて休業手当を受け取る権利があります。
休業手当の計算方法を3ステップで解説
ここでは、休業手当の計算方法を以下の3つのステップに分けて解説します。
<休業手当の計算方法>
- 平均賃金を算出する
- 休業手当の額を計算する
- モデルケースでシミュレーション
平均賃金を算出する
休業手当の計算の基礎となる平均賃金は、原則として「休業日以前3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割った金額」です。この賃金総額には、基本給のほか、通勤手当や残業手当、皆勤手当なども含まれますが、賞与など臨時に支払われる賃金は除きます。
また、パートタイマーなど日給・時給制の労働者については、上記の原則計算額が「賃金総額 ÷ 労働日数 × 60%」で計算した最低保障額を下回らないように定められています。
休業手当の額を計算する
平均賃金が算出できたら、次はその金額を使って休業手当の額を計算します。労働基準法第26条では、休業手当として「平均賃金の100分の60(60%)以上」を支払うよう定めています。
したがって、1日あたりの休業手当の最低額は以下の計算式で求められます。
休業手当の額(1日あたり) = 平均賃金 × 60%
法律が定めているのはあくまで最低基準です。企業によっては、就業規則や労働協約で「平均賃金の80%」や「通常の賃金の100%」など、より手厚い支給率を定めている場合もあります。
モデルケースでシミュレーション
具体的な計算イメージを掴むために、月給制と時給制の2つのモデルケースでシミュレーションしてみましょう。
【ケース1:月給制の正社員】
- 月給:30万円(各種手当含む)
- 休業日以前3ヶ月の暦日数:91日
- 賃金総額:30万円 × 3ヶ月 = 90万円
- 平均賃金:90万円 ÷ 91日 ≒ 9,890.11円
- 休業手当(1日):9,890.11円 × 60% = 5,934.07円
【ケース2:時給制のアルバイト】
- 休業日以前3ヶ月の賃金総額:27万円
- 同期間の暦日数:91日 / 労働日数:45日
- 平均賃金(原則):27万円 ÷ 91日 ≒ 2,967.03円
- 平均賃金(最低保障): (27万円 ÷ 45日) × 60% = 3,600円
- 採用する平均賃金:高い方である3,600円
- 休業手当(1日):3,600円 × 60% = 2,160円
休業手当の税金・社会保険の取り扱い
最後に、以下の2点について説明します。
<税金・社会保険の取り扱い>
- 税金上の取り扱い
- 社会保険上の取り扱い
税金上の取り扱い
休業手当は、所得税法上、通常の給与と同じ給与所得として扱われます。所得税および復興特別所得税の課税対象となり、会社は支払いの際に源泉徴収を行わなければなりません。一方で、業務災害による休業時に労災保険から支給される休業補償は非課税であり、ここが大きな違いです。休業手当はあくまで賃金の一種であるため、年末調整や確定申告の際にも給与所得として申告する必要がある点を覚えておきましょう。
社会保険上の取り扱い
休業手当は、社会保険(健康保険・厚生年金保険・介護保険)においても、通常の給与と同様に報酬として扱われます。社会保険料の算定基礎に含まれるため、会社と従業員の双方が所定の保険料を負担する必要があります。
また、雇用保険においても休業手当は賃金と見なされるため、雇用保険料の対象となります。給与明細上では、休業手当から社会保険料や雇用保険料が控除される形で支給されるのが一般的です。
まとめ
休業手当は、会社の都合で従業員を休業させた際に、その生活を保障するために労働基準法で定められた重要な制度です。特に、支払いの要件となる「使用者の責に帰すべき事由」の範囲や、「平均賃金」を基にした正しい計算方法を理解しておかなければなりません。本記事で紹介した内容を参考に、いざという時に備え、正しい知識を身につけ、労使間のトラブルを未然に防ぎましょう。
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